宜野座

節分

節分、現代では2月3日に慣例化している厄除け行事だ。

私はここ3年、プロ野球の春季キャンプを追っかけに2月の1日か2日には沖縄に飛んでしまうので、この節分行事をしばらく行っていない。
それは今年も例外なく、2月3日は宜野座村に滞在していた。

宜野座村の宿は、個人のお宅の空き部屋をゲストハウスとして利用している小さな一軒家だった。
女性の宿主さんはてっきり現地の方かと思っていたが、宮城出身。
故あって311後に沖縄に移り住み、一軒家を借り上げてゲストハウスを営んでいた。
東日本大震災直後は、被災した地元の方を招いたりもしていたそうだ。
このようなライフスタイルになる前はダンサーをしており、日本全国、はたまた海外も飛び回っていたという華々しい経歴。
「リオのカーニバルで踊るのが夢だったんだけど、夢叶ったからもういいかなって思ったの」
と、おっとり微笑んでいたのが印象的だった。

宜野座村は想像していたよりはるかに田舎であった。(悪意はない)
田舎、というよりのどかと言ったほうが正しいだろうか。
犬を飼っているお宅が多く、さらには放し飼いの光景もよく見かけた。
ある日、共有スペースからぼんやり外を見ていたら犬がトコトコ道路を一匹で、飼い主に連れられずに闊歩していたから大変驚いた。
東京でそんなことしていたら怒られてしまう。(か、繋いでおく条例があるはずだ)
首輪をつけていたのでどこぞの飼い犬であったはずだが、近づいてみると意外と警戒されて最後まで心を開いてくれぬうちにどこかに去ってしまった。

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「犬が放し飼いされているので驚きました」
宿主さんに話すと、
「昔はもっと放し飼いの犬がいたんだけど、最近は減ってきたの」
と、大したことではないというふうな返事だった。

数日後、宜野湾に滞在中に聞いた話によると、米軍従事者で、本国に戻る際に連れて帰れないからペットを捨てていってしまうケースがあり、こういった犬を引き取る方もいるそうだ。
宜野座村の宿の隣のお宅は5匹以上犬を飼っていたが、柴犬ベースの雑種に紛れて、ダックスや白いフワフワしたような室内犬のような犬も紛れていた。
小奇麗な犬はそういった経緯で捨てられたのを拾ってきたのだろうか、とふと思い出した。

話は戻り、宜野座村でお世話になったゲストハウスのこのお宅も、黒いメス犬を一匹飼っていた。
お家と繋がるように作られているガレージがあり、彼女はそこでのびのび飼われていた。
犬種がわからなかったから雑種だと思うが、秋田犬くらいの大きさの、黒く長い体毛がキュートなかわいらしい犬だった。
宿泊初日の夜はさんざん吠えられたので、番犬として役立っているに違いない。

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翌日は節分で、二日目ともなるとすっかりお客さんとして認識したのか吠えられることもなくなってしまった。(それどころか私達に興味すら失ったようであった)
「お客さんと仲良くなってもね、いずれいなくなっちゃうのわかってるのよね」
と宿主さんがさらりと言っていた。

その夜、宿主さんと旦那さんが
「鬼は外、福は内」
と彼女達の居住スペースで豆まきを始めた声で「ああ、節分だっけ」と思い出したのだった。
毎年2月のこの時期は非現実世界に住んでいる感覚になるため、節分もそうだし世間のことに全く意識が向かなくなっている。
そのうち宿主さん達がガレージに移動し、パラパラと豆が撒かれる音が聞こえたため、図々しくのぞかせてもらった。
座り込んだ宿主さんと旦那さんが仲睦まじく豆をまき、愛犬が豆を片っ端から食べていた。
「こういう行事、ちゃんとやってるのよ」
意外でしょ?とでも言いたげに、宿主さんは少し誇らしげな声だった。
「私は毎年この時期沖縄に来るので、しばらくやってないんですよ」
と言うと、旦那さんが「やりますか?」と豆の袋を渡してくださった。
ありがたくいただいて、1つずつ豆を取りながら
「鬼は外、福は内」
と、2粒黒い愛犬の口元の辺りに投げさせてもらった。
旦那さんはとても物静かで人見知りをする方のようで、言葉を交わしたのはそのときが初めてだった。
長くお邪魔をするのも悪いと思い、黒い犬の頭を撫でてからお礼を述べて私達の借りている部屋に戻った。

来年は沖縄入りを少し遅らせて自宅で豆まきをしよう、と思い直した夜だった。

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