(2)のつづき
イノシシ鍋でお腹をパンパンにして部屋に戻ると、部屋にはお布団が5人分敷かれていた。
毎年、我が家の大晦日は単に年越しだけではなく、もう一つ大切なイベントがある。
大晦日は、母上の生誕祭なのだ。
私が東京に出たのが2003年。
私が言い出しっぺで、確か2004年の年末から毎年大晦日に母の誕生日を祝うようになった。
2004年は地元のケーキ屋さんでケーキを適当に調達した。
年末は意外とホールケーキが入手しづらいことがわかり、翌年からは予めケーキを予約するようになった。
以降、ケーキは、毎年タルトの有名店キルフェボンで予約している。
実はキルフェボン、本店は静岡のお店なのだ。
静岡市役所の静岡庁舎・葵区役所の前を南に伸びる青葉通りと呉服町通りの角にキルフェボンはある。
キルフェボンを知ったのは東京に出てからで、同僚の女子力の高い人達が
「本部長のお誕生日祝いのケーキを買いましょう」
と、代官山のキルフェボンに行ったのが初めてだった。
素敵なタルトもお店だなぁと調べると、なんと本店は静岡であのあたりかよ!と後から知ったクチだ。
地元にいる頃からそのあたりはよくウロウロ遊んでいたけど、まずケーキ屋さんでお茶をする習慣がなかったから全くスルーしてたのである。
毎年31日になると、キルフェボンに予約済みのタルトを取りに行く。
すると、年末にも関わらず、いや年末だからか、店内はいつの年だって満席で、ケーキを買う人とカフェ待ちの行列ができているのが当たり前で、さすが人気店と感心するのも恒例だ。
この年は予め宿の方に誕生日のケーキを頼んでおいたので、キルフェボンのタルトは一休み。
末の妹が用意してくれた、HAPPY BIRTHDAYのろうそくをこれでもかとケーキに添えると、大変窮屈な感じになってしまった。

みんなでハッピーバースデーを歌った後、母がろうそくを吹き消す。
毎年変わらず続けている行事だけど、この先何度できるだろうか。
2013年末も、母のお祝いを無事にできたことは、些細だけど大きな幸せだ。
みんなでヒイヒイ言いながら、パンパンのお腹にさらにケーキを詰め込んだ。
どちらのケーキかわからないけれど、きっとこの辺りのお店のものだと思われる。
生クリームは甘すぎて、正直すごく美味しい!とは形容し難かったけど、宿の方が選んでくれたものなのでありがたく頂いた。
特別な日を祝うケーキひとつ、大事なアイテムなんだなぁと改めて認識させられる。
だから世の人々は、より美味しくて、かわいくて、素敵なケーキを求めるのかもしれない。
大切なお祝いや特別な日の大トリを飾る特別なスイーツがまずかったりしたら、すなわちサヨナラ逆転グランドスラムを被弾するようなものだろう。
ケーキを食べ終えると、みんなでお風呂へ。
福田屋さんにはお風呂が2つある。
1つは本館にある榧(かや)風呂と、新館から行くことができる離れにある露天風呂だ。
いずれも源泉掛け流し、効能は神経痛・皮膚病・婦人病・筋肉痛・関節痛・腰痛など。
この時間帯は両風呂が貸し切りタイムで、榧(かや)風呂は埋まっていたので空いていた露天風呂に行くことにした。(空いている時に貸し切りで入ることができる仕組み)
露天風呂は屋内のガラス張りの岩風呂と露天風呂の2つからなっている。
脱衣所には「河津川」の歌詞の書かれた額と、ちょこんと置かれた鏡餅がキュートだった。
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左がガラス張りの岩風呂、右が露天風呂だ。
ケロリンの黄色い桶が醸す温泉風情が素朴で“らしく”て嬉しい。
行き来はもちろん自由で、好きなほうを好きなだけ楽しめる。
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冬季で屋外だと、どうしても露天風呂の温度が下がってしまうため露店風呂のお湯はぬるめだった。
一方岩風呂のほうがしっかり熱かったため、岩風呂で充分に温まったあとぬるま湯を楽しみ、もう一度岩風呂で体を温めた。
気持ちのよい露天温泉を、大晦日に貸し切りでじっくり浸かることができるなんて極楽。
よく考えたら、家族揃ってお風呂に入ることは初めてで、特に、恥ずかしがり屋の2番目の妹の体を(小学生のときを最後に)ちゃんと見たのは初めてだった。
ジロジロ見たわけではないけれど、やっぱり非日常で不思議な感じがした。
ひとつ気になったのは、露天風呂を囲う垣根はあるものの、新館の上階の窓がこちらからよく見えたので、普通に新館の上階のお客さんからは丸見えじゃないだろうか。(常に)
あまり気にせず入っていたけれど…。
部屋に戻り布団に潜り込んで、テレビで紅白歌合戦と絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時を交互に見ながら2014年を待った。
ほどなく母と叔母は疲れたとさっさと寝てしまい、23時45分になるとチャンネルをゆく年くる年に変えた。
賑やかな番組でカウントダウンをするのもいいけれど、厳かな静けさの中で新年を迎えるのがとても好きだ。
日本の各地をリレー中継がつないだあと、静かに2014年が訪れて新年を伊豆の片隅で迎えた。
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つづく